
(仮称)我孫子のグループホーム 千葉県我孫子市 2020年3月竣工
重度の知的障害者のグループホームと、ショートステイおよび相談事業所の合築。
2つにも見えるし、1つにも見える。そのような形態を追求した。

道路側に面して2つのエントランスが配置されている。屋根が凹んだところから雨水を集水する。

南側立面。繊細な母屋の跳ね出しによる薄い屋根。

食事を運ぶ車のために北側の駐車場には庇を掛けた。

グループホームのデイルーム。ブドウ棚とよぶ格子状の梁架構は水平力を伝達するとともに、みかけの天井高さを抑える。
その他にも、スプリンクラーや照明などを統合。

デイルームは6つの個室に囲まれる。天窓に熱だまりとなる凹みを設け、冬期は暖気を床面に吹き下ろす。夏期は温度センサーによって熱気を外部に排出する。

キッチン内部。ブドウ棚ごしに天井が見える。

箱状の塊のあいだは居場所としての共用部である。洗面カウンターの外部の縁側にはベンチを設けている。「箱」の出隅はR25mmとし、柔らかさをもたらす。

屋根が凹んだところの下部は事務所。天井がグループホームとそれ以外とを分ける。梁の高さが連鎖的に切り替わる。

ショートステイ側の廊下端部。窓からは北側の駐車場が見える。

グループホームの個室内観。腰壁や見切り材に木材を多用。ビスをもんだり、手摺やフックを増やしたりすることが容易で、個々の暮らしの場をつくりやすい。

個室からデイルームを見る。外部サッシと同様に欄間を設け、プライバシーに配慮しながらの自然通風を可能にする。

欄間や天窓から入る光と床に跳ね返る光。上下に異なる光が積まれる。

デイルーム側外観。

道端からデイルームのブドウだな天井が見える。内部の木質感が外部に伝えられる。

地域社会の中のグループホームは周辺との関係をつくるべきである。屋根と外部空間でもってそれを実現しようと考えた。
設計:仲俊治・宇野悠里/仲建築設計スタジオ
構造設計:坪井宏嗣構造設計事務所
設備設計:創環境設計
施工:大塚建工
この建築は、知的障害者グループホームを母体にしながら、ショートステイや相談事業所が合築された建築です。
合築されているのは地域の福祉拠点としての要請のためです。ただ、グループホームには6人が住むことになりますが、この6人にとっては、ショートステイや相談事業所は、生活空間として無関係です。この、「2つだけれども1つ、1つだけれども2つ」、ということを形態化しようと考えました。
切り込み屋根がその回答です。内部においては2つのプログラムを分けることになり、外部においては、見方によって二つにも見え、一つにも見えます。と同時に、切り込み屋根の形状を活かして屋根構造の安定性をもたらすものになっています。谷樋部分で雨を集め、周辺に確保した緑地帯を育てる源泉にもなっています。
グループホームの事例をこれまでいろいろ見て、考えるべきことが色々あると思っています。それに対する 建築的な解決の糸口を探ろうとしました。たとえば、ブドウ棚、ヘタ地、居場所の多様化、などです。
ノーマライゼーションの理念に沿って、この30 年をかけて、入所施設から地域生活への移行が進められてき ました。2020年にはグループホームの利用者数が入所施設の利用者数に並ぶという報道もあります。しかしながら、市街地のグループホームの実情はそのような理念とは裏腹に、「周囲の人びとに迷惑を掛けないこと」に配慮するあまり、周辺の関係を絶ち、行動を監視するような「ミニ施設化」も顕著です。
ミニ施設化の一端を担っているのは、福祉施設特有の大きな平面と、家族イメージの付与です。これらが必然的にもたらす「高天井問題」を回避するため、ブドウ棚と浮かし屋根という構造的な工夫をしています。このブドウ棚は構造的に水平構面を補助し、また、スプリンクラーをはじめとする種々の設備を納めています。浮かし屋根にすることで、それぞれの居場所が明確化したと考えています。プランは、構造的な壁による箱状の空間を点在させてつくっています。居場所の選択性や、平面的な回遊性 を獲得することが、他者や外部との交流のきっかけになると考えました。(仲俊治・宇野悠里)